「キノコの見方とかさ、この時期はここに行けば何があるっていうのが分かるわけ。そうすると山に行く楽しみができて、今度はさ、1年間のカレンダーができるわけよ、自分の中に」
石巻市小積浜で自らを食猟師と語る小野寺さん。人間が山に入る必要性が減るにつれ、人と自然の緩衝帯は失われ、境界が曖昧になり、開発や人工林の放棄などにより枯渇した山からは、動物たちが人の生活圏に入ってくるようになったそうです。季節ごとの山の恵みに目をこらしながら鹿と対峙し、山を歩く小野寺さんは体の中に自分の暦を持っているように感じました。

話し手:小野寺望さん(以下小野寺) 聞き手:建築ダウナーズ(菊池、千葉、吉川)
◯山に入るようになったきっかけ
菊池:そもそも小野寺さんが山に入るようになったのって、どういうきっかけでしたか?
小野寺: 俺の場合はね、ちょっと家庭がうまくいかない時があったんだよね。俺はちょうどその時、山に自分の救いを求めたっていうか山伏じゃねえけど本当に身体を酷使することによって、人にも言えないことをぶつけていくところって山だったんですよ。それを狩猟を通してね。もう何年もかかったけどさ、結構 その傷を癒すのに時間は必要だったよ。
まあその時ちょうど山のことに詳しい古老とかさ、いろんな話、今は誰も使わなくなった山の 利用方法とかさ、誰も食べなくなった山の食材とかって、そういうところ教えてもらったのよ。
菊池:どんなことを教えてもらったんですか?
小野寺:キノコの見方とかさ、この時期はここに行けば何があるっていうのが分かるわけ。そうすると山に行く楽しみができて、今度はさ、1年間のカレンダーができるわけよ、自分の中に。 本当に辛い思いとかいろんなことしてきた中で、楽しみっていう夢、ほんのちょっとでも夢見れる事っていうのはすごい楽しいんだよ、笑えることっていうのは楽しくてさ。津波の頃とかっていうのも笑えなかったの、どうしていいかわかんなくてさ、震災の頃だってさ。そこでどうやってこう切り替えられるかって、時間かかるかもしれないけど。 そういうのでだからもうストイックに俺はもうその山に行ってね。もう動物になりきったっていうかね。山ん中を。もう肺が裂けちゃうんじゃねえかっていうくらい、もう心臓ドカドカになるぐらいまで 鹿と追いかけっこしながら、そんで追い詰めてて獲ったりとかさ。
菊池:その時も銃で撃ってたんですか 。
小野寺:集団でも狩りはできるけど、一人でもう本当にその動物とも間合い詰めながらぎゅーっと追い詰めてって獲ってくるっていう、すそれも飛び道具 も原始的な飛び道具だよ、ショットガンのさ有効射程距離だって大したこともねえ。ライフルみたいな精密機械じゃねえよな、 そういう道具で、至近距離で、いいところで50m以内に追いつけねえと急所外れちゃうような銃だからね。もちろんマグネット取れるけどさ 150あたりでさ。確実に仕留められるって50m以内に距離詰めて撃たないとっていうね。
菊池:その時は獲った鹿も食べてましたか?
小野寺:食べてたよ。テーマだった、自分の中で。その1頭をどう無駄なく始末つけるかっていう。
集団の狩だとおざなりになるっていうか、人って雑になっ ちゃうんだよ。「 急げ、ほらほら」とかせかされたり、「次行くぞ」って言われたりとか。人によって手が速い人もいるし、遅い人もいるしさ、人によってこのギリギリまでお肉をはがして取りたいとかさ、 皮一枚綺麗にしたいから時間かけて皮剥ぎたいとかさ色々あるから。それをやっぱりこう集団で行くと、もうこんなところにお肉をべったりくっつけて(骨を)外しちゃったりとかさ、無駄いっぱいになっちゃうんだよね。そういったのも含めて、ちゃんと自分一人だけでこのまるまる1頭をどう綺麗に始末つけるか。で、自分が食べきれなければ、大切な人たちにおすそ分けするとかね。 決して高価なものじゃなくていいのよ。 押し付けがましいのもいらなくて、自分が大切だなと思った人に本当にこれが美味しいなとか、真心だけでいいと思うんだけど。そういうプレゼントってしてあげたいなと思ったわけ。それがお肉をほんのちょっとでいいけど、でもこの人のためにきれいに 掃除したりとかさ、手間暇かけて。何だろう、ちゃんと鹿にも 敬意を持って殺してさ、で、さばいて臭くないように血とかちゃんと抜いてやって。それで、ただのこんなどうしようもない 肉だけど、 貰った人がどうであれ、そこに自分は誠意を示したって、そうやって人にあげてたから。
そういうので、山っていうのはいろんな意味で、鹿もそうだしさ、木1本から、草一本から、あとは朝露の 一粒にしろさ、全てがなんかもうなんか新鮮だし、すごくなんか神聖なものでもあったんだよね。
◯山のサイクル
吉川:そういう感覚ってこう山に入られ始めてから、すぐそういう気持ちに なりましたか?割と何年もかかって?
小野寺:いや、すぐはならねえよ、山を一つ一つ歩いていく中で気づいてないこととかいっぱいあったんだよ。足元を全然見てなかった。 そういうことは本当にあって、上ばっかり見てると下が全然見えてなくて、そこにはすごいものがいっぱいあったんだね。生えているものっていうか、 それこそ植物たちのさ、営みっていうのはもう強烈で、生存競争激しいんだよ、食うか食われるかの弱肉強食っていうのが、動物だけじゃなくて植物がそれやってんだよ。それがすごいんだよな。わーって生い茂って緑が緑を飲み込んでいくその勢いと、それを押し返して今度下から逆転してたりとかさ。
植物ってそれがすごいのよ。進化の過程っていうかね。それをね、自分だけじゃ動けねえから、昆虫使ってそれをしたたかにやってたり。 動物に食わせて種運ばせるとかさ、そういうことで自分の子孫繁栄とかっていう部分でやってて。
そういうの見てて、だいたい20年サイクルで山が変わってくるっていうのはだんだん見えてきてるんだよね。
菊池:山のサイクルっていうと、以前小野寺さんとクロモジの葉っぱでお茶を作ってる時に、クロモジは荒れた山の最初のフェーズで出てくる木だって教えてくれましたよね。
小野寺:例えば、荒れた山ね、皆伐されたところなんか、今まで日も差さなかった地面がボンと出てきたってさ、そもそも栄養がねえじゃん。山の養分っていうか、腐葉土がねえんだから。全部流されちゃってて。乾燥しきっちゃってるからね、もし緑出たとしても鹿に食われちゃうから。だからそうやって最初出てくるのは、トゲトゲあるか、毒があるとかそういう植物なんだね。アザミとかさ、毒がうんと強い、シュウ酸カルシウムの塊のようなそういう植物。食べられないようにね。で、そういうのがやっぱり何年かして枯れてきて、次の変遷があるじゃない?そういう変遷っていうか、例えばススキとかもね。ススキは自分枯らしちゃうしね、セイタカアワダチソウも一緒だね。
それでどんどんどんどん変遷があって、今度はヨモギだったりとかね、いろんな植物が生い茂ってきて戻ってくるよね。
菊池:土に保水力とか養分がだんだん戻ってくるっていうタイミングはあるんですか?
小野寺:ここらへんにそういうタイミングが来てるのかはまだわからないんだけど、最近見えてきたのはやっぱり鹿の数が減ってき たということかな。それはちょっと変わってきたよね。
◯鹿を通してみる山の変化
菊池:え、最近減ってるんですか?
小野寺:このぐらい草生えてくるということは、鹿が食べてないってことだからね。今まで道路のヘリにさえ草なかったのね、牡鹿半島って。法面に草一切なし。除草剤撒いたぐらいね。それが今通ってくる度に道路の脇に草生い茂ってるでしょ。あれ20年前なんかねえんだからね 。
千葉:確かに、来る時草生えてました。震災前からやっぱ鹿はすごい多かったんですか?
小野寺:多かったよ すごいもんだったから。震災前の方が。
菊池:そもそもどうして鹿が増えてしまったのか、改めて教えてもらってもいいですか?
小野寺:国がずっと保護政策してたから。雌鹿は獲っちゃダメっていうのと。どうやってそれを決めたのか、策定したのかわからないけど、オスが1日1頭取って良くてさ、1人一頭とか。あとは狩ができる時期が短かったんだよね。確かね、記憶ないんだけど、狩猟期間ってさ、俺免許取ったばっかりの時は11月15日から2 月の15日までなんだけど、鹿は 12月1日から 1月10日とか15日で終わりになるのよ。時期短かったの。そんで、全然獲れないって言ったらおかしいけど、数は全然少なかったんだね。 技術が悪かったのもある。 装備だよね、銃のライフルだとか、スコープだとか。なおかつ無線機とか。無線機はあったけど、GPSとかないしね。
(小野寺さんがGPSを持って来てくれる)
菊池:これ、巻き狩りの時に犬の首につけてたやつですよね。
小野寺:これが合法のやつ。位置がわかるように。アメリカのやつ。これが犬用の。
それをつけないと、犬どこ行ったかわかんないから。これもだから GPSじゃねえんだよ、衛生使ってねえから。
吉川:無線みたいな。
小野寺:うん、親機があって、親からみんなに信号行くようになってて。みんなで 囲まないと、この信号を拾ってくれないのよ。 で、どこにいるっていうのはそこで割り出してこの画面に出てくるから。アメリカのは衛星使ってるから、犬がどこに行ったかが完璧にわかるんだよ。日本の法律だと、それなんかは緊急無線とかぶっちゃうの。消防とか。元々衛星の本数チャンネル数少ないからね。日本ではなかなか。こんな感じで。
こういうのができてからさ、どんどん効率が良くなったんだよね。それまで犬に電波発信機っていう音声無線しか付いてなくて、犬が鳴けばピーピーぴーって、その犬のピー音が入って来たらその近くに犬がいるってことだから、それを探し求めてやってたんだけど。デジタルもそのメモリー数がフルになってれば、近いところにいて、1個しか入らなければちょっと遠いうところにいるっていう。
吉川:距離しかわからなかったみたいな。
小野寺:そうそうそう。
吉川: じゃあ結構その鹿が増えたり減ったりって自然環境の変化もあるけど、人間の都合というか、国策、保護するかどうか、あとは道具の技術が改善されたりとか、そういう理由も結構関係があるんですね。
小野寺:あとはやっぱり、森を利用しなくなったってこと。人間が森に入るのを必要としなくなったっていう、そういうところがやっぱり強いんだよね。
菊池;森に入らなくなるとどうなりますか?
小野寺:もう境界線なくなっちゃうんじゃん。人が森に入ってくれば危険だな、とか。あとは森の中、山の中にも田んぼがあったり畑があったりして。
菊池:開墾してたんですね。
小野寺:そうそう。そういうところが常に緩衝帯になってたりしたんだけど。それが無くなってしまった場合に、全然もう山に人が行かなくなっちゃって、 動物はここまで来ていいのかって、そういうところでの垣根がなくなっちゃったんだね。
ここって意外とね、陸の孤島みたいな場所だったから、まあ日本がそうだったんだけどさ。食糧事情が悪くて、山の中入ってみるとわかるけど、昔の田んぼとか畑とか。墓場だとか、そういう人間の営みの痕跡があるんだよね。もっと人口は少なかったと思うんだけど。こんなとこまで人入って来てたんだなって。生活の跡があんだよね。炭焼き小屋があったりとかさ。 芝刈りしてたんだなっていう、そういう大きな樹木もなければさ、ここって元々はそういう丸坊主の山だったんだ、とか。聞けば牡鹿半島のこの小積の山っていうのは、ここは炭焼きがいっぱいあったみたいで。鮎川の方行けばもうみんな坊主山だった。
菊池:なるほど。昔は山の方が生活するのに豊かだったかもしれないですね。他にも鹿に変化はあったりするんですか?
小野寺:変化って言えば、やっぱ 大きな個体はいなくなってきた。それはうちらのせいだね、駆除してるから。ハンター心理でやっぱりでかいの撃っちゃうしね、大きい方が撃ちやすいんだよね。こういうでっかい角の鹿が来たらやっぱり撃ちたいっていうのはあるよね。みんな鉄砲好きでやってるんだよ、嫌いならやってないから。まあ食うか食わねえかっていう話だよ、どうしてもそういう根底の根っこの部分にあるのもそうだから。メスよりはデカいシンボリックなツノつけたオスの方を撃ちたいっていう風には多分みんななっちゃうんじゃねえかな。食べるのにはまた別の話だよ、メスがいいとか、オスがいいとかまた時期によっても変わってくるし。 出会う機会としてはメスの方が撃ちやすいし、割と近くに出てくるんだよね。
菊池:警戒心があんまりない?
小野寺:警戒心っていうよりも、腹減るの早いんだよね。子育てしてたりとか。オスは後から出て来たりとかするからね。
吉川:大きい個体をやっぱりたくさん取ってると、小さい鹿が残って、その鹿の子供とかも結局遺伝とかの関係で小さいのが多くなるから、年々なんとなく小さくなるっていうことですか?
小野寺:餌の問題だと思う。 大きいオスがいなくなるっていうのは単純にその、繁殖行動できるのはだいたい2年経てばできるから、でかい小さい関係ないんだよね。ただ目立つ大きいのはハンターが撃っちゃうし。 実際オスのでかいのって警戒心がうんと強いのよ、 犬追いかけると、逃げるのも体大きいから遠くまで走れねえから一直線で海に飛び込んで 泳ぐんだけどさ、だから獲りやすいっちゃ獲りやすいのよ、ただそれ出すためにすごいいろんな知恵比べみたいなことしなくちゃいけないんだけど。
菊池:なかなか出て来てくれないんですね。
小野寺: 断崖絶壁の、こういう低いところに、犬も行かないようなところに隠れてたりさ。そっからビョーンと跳び出して来たりしてさ、義経の逆落としじゃないけど、こんな急な絶壁のところを逃げてくる鹿もいっぱいいるわけよ。 そんな感じでね。
千葉:今はやっぱその駆除するのもあって、狩猟するスピードが速すぎるっていうことなんですか?
小野寺:それプラス、なんだかんだで理由つけて、山をよく見ると全部ネット張ってあるから。
吉川:ネット?何のためのネットですか?
小野寺:鹿が通らないようにするため。それは莫大な予算が出てるんだよね。それで万里の長城みたいに山を全部囲っちゃってるんだね。
菊池:それは石巻...。
小野寺:そう、この半島。
千葉:イノシシよけの電気の柵とかもありますよね。
小野寺:早々、ここはもう全部柵で囲っちゃってるから。
吉川:じゃあ山に境界というか、行動範囲が限定されてたりするんですか?
小野寺:だから鹿が逃走できる範囲が、今までとは違う行動が出てくるわけだ。今まで自由に何の垣根も何もなくて、本当にちょっとでも動物通れるスペースあれば、ボンボン建てるから、今もここで寸断されちゃってんだよ。ここ通りたくても、金網張ってあるから渡りたくても渡れねんだよ。住宅地に出て、住宅地からまたちょっと道路走ってぐるっと回って、今度また違う方の山に行かなきゃいけなかったりとかさ。
菊池:え、大変。
小野寺:大変だよ。人も大変だけど鹿も大変だよ。 それで餌もどんどんどんどん無くなってくるし。
菊池:それはなんのためのネットですか?
小野寺:防鹿ネット。鹿に害を加えられるのは嫌だから。誰も使いもしない山を守るためにね。誰も伐採しない山を守るために。
吉川:それは山の持ち主の個人でするんですか?
小野寺:いや、個人だけじゃない、国とか、国有林がまず率先してやってるし。国有林は林野庁だね。
千葉:今は、住宅需要が下がってるのにさらに杉を植えてくっていう行為自体が本当にいるのかなっていうのもありますよね。
小野寺:ナンセンスだよね。だってO2どうのこうのっていうじゃん、酸素が出てきてって。それだってほぼほぼ、海の植物プランクトンから出てるし。こんな杉の木が全部酸素出してるわけじゃないからね。
吉川:そうですよね、杉だけじゃなくて、針広混交林とか、広葉樹林とかやり方はありますよね。
(2023年、石巻市小積浜のAntler Craftsにて行ったインタビューから抜粋したものです)